頭のゆがみの治療法 03

赤ちゃんの頭のゆがみを矯正するための治療「ヘルメット治療」とは?

赤ちゃんの頭のゆがみの改善のための治療として注目されているヘルメット治療。ヘルメット治療はアメリカで始まり今では世界中で行われている赤ちゃんの頭のゆがみの治療法です。今回は、ヘルメット治療が気になる方に向け、ヘルメット治療の治療内容について医師にうかがいます。

赤ちゃんの頭のゆがみに対する治療法として「ヘルメット治療」があると聞きました。アメリカでは多くの赤ちゃんがこの治療を受けているといいます。ヘルメット治療とはどんな治療なのでしょうか?

今おっしゃったように、ヘルメット治療は1979年にアメリカで開発された赤ちゃんの頭のゆがみに対する治療法です。赤ちゃんの頭の形に合わせたヘルメットを赤ちゃんになるべく長い時間かぶせることで頭のゆがみの改善を図ります。

昔は「赤ちゃんの頭のゆがみは放っておいてもよい」と言われていましたが、近年、頭のゆがみが強いと赤ちゃんの発育に影響を及ぼすことが懸念されています。それにともなってヘルメット治療も今、注目されているのです。

ヘルメット治療はアメリカで生まれたのですね。なぜアメリカではヘルメット治療が広く行われているのでしょうか?

アメリカではもともと赤ちゃんをうつぶせで寝かせる文化があり、赤ちゃんの頭のゆがみが問題になることはありませんでした。しかしうつぶせ寝が乳幼児突然死症候群(SIDS)を引き起こすリスクを高めることがわかったため、1992年から乳幼児突然死症候群防止のための仰向け寝を勧める運動が始まったのです。

仰向け寝は頭のゆがみの原因のひとつですから、運動が始まると同時にアメリカでも頭のゆがみを持つ赤ちゃんが増えてきて問題視されるようになってきました。そこで頭のゆがみの改善を図る方法のひとつとしてヘルメット治療の需要が高まり、現在に至ります。

アメリカでは日本よりも多くの種類の頭のゆがみの矯正用ヘルメットが販売されています。

アメリカは赤ちゃんの頭のゆがみ治療の先進国なのですね。一方、日本では赤ちゃんの頭のゆがみはどのように扱われてきたのでしょうか?

日本は昔から仰向け寝の文化だったので、頭のゆがみを持つ方が多く、赤ちゃんの頭のゆがみもあまり問題視されてこなかった背景があります。後頭部が扁平になった状態を指す「絶壁」という言葉もあるくらいですから。「赤ちゃんの頭のゆがみは放っておいてもよい」と言われてきたのもこの文化があるからでしょう。

しかし日本でも近年、お子さんの頭のゆがみを気にされる保護者の方が増えてきました。2018年、日本でも厚生労働省からの薬事承認を受けた頭のゆがみの治療用ヘルメットが登場し、一部の医療機関で取り扱われています。

日本でもヘルメット治療を受けられるようになって治療の選択肢が増えたことはよいですね。そもそも、ヘルメット治療はどのような原理で赤ちゃんの頭のゆがみの改善を図るのでしょうか?

ヘルメット治療で使われるヘルメットは、それぞれの赤ちゃんの頭の形に合わせたオーダーメイドのものです。ヘルメットをかぶり、頭がゆがんでしまって平らになった部分へ圧力がかかることを防ぎ、その部分の発育を促していきます。そして、頭の出っ張った部分にはヘルメットで少しずつ圧力をかけ、徐々に赤ちゃんの頭を正常な形へと導いていきます。

ゆがみの要因となっていた赤ちゃんの頭のやわらかさを利用して、赤ちゃんの頭のゆがみの改善を図るのです。

無理やり矯正するのではなく、赤ちゃんの頭を外部から守りながら、赤ちゃんの頭の特性を生かして少しずつ本来の形へと導いていくのですね。

はい。なるべく赤ちゃんに負担をかけないように、定期的にヘルメットのサイズ調節をしながら治療を進めていきます。

先ほども述べたようにヘルメット治療は赤ちゃんの頭のやわらかさを利用した治療法なので、赤ちゃんの頭の骨がやわらかい生後2ヶ月から6ヶ月の間に治療を始めることが望ましいです。治療期間は6カ月程度。ただし赤ちゃんの頭のゆがみの程度や治療開始時の月齢、治療の進み具合により変わりますので、期間は前後することがあります。

実際に、ヘルメット治療の治療は効果があるのでしょうか?

寝る向きを頻繁に変えるなどの体位変換と比べ、ヘルメット治療はより短期間で頭のゆがみが改善されたとの研究結果(※)があります。また、この研究では頭のゆがみの改善率も体位変換と比べて1.3倍だったと報告されています。

ヘルメット治療は頭のゆがみという外観以外にも、高度なゆがみによって生じる可能性のある発達の遅れの予防が期待できるとも最近は考えられているのですよ。

※Xia JJ, et al.“Nonsurgical treatment of deformational plagiocephaly: a systematic review.” Arch Pediatr Adolesc Med. 2008 162(8), 719-727

ドーナツ枕やマットレスなどは頭のゆがみに効果はあるのでしょうか? やわらかいものを頭の下に敷いておけば頭のゆがみの原因となる外圧から頭を守ることができそうですが……。
ドーナツ枕やマットレスが赤ちゃんの頭のゆがみに効果があるのか否かについては、現時点では明らかではありません。寝返りなどによって枕の位置がずれてしまい、十分な効果を見込めないとの報告もあります。そのため、ドーナツ枕やマットレスだけでの頭のゆがみの改善は難しいと考えたほうがよいでしょう。
きちんと頭のゆがみを治したいと思ったらヘルメット治療が選択肢に入るのですね。ヘルメット治療の費用はどれくらいでしょうか?

ヘルメット治療は医療機関により異なるものの、40万円程度が目安です。費用が高いと驚いた方もいるかもしれません。これはヘルメット治療が健康保険の適用とならない治療だからです。

また、ヘルメット治療は頭のゆがみがあれば誰でも受けられる治療ではありません。専門医が赤ちゃんの月齢や頭のゆがみの程度、ゆがみの原因となる病気の有無などを考えながら総合的に判断をします。

赤ちゃんの頭のゆがみを治療したほうがよいのか悩んだ場合、保護者の方はどうすべきでしょうか?

お子さんの頭のゆがみが気になったら、まずはかかりつけ医など小児科の先生に相談しましょう。「たかが頭のゆがみくらいで……」とためらう方もいるかもしれませんが、我々医師はこうした相談を多く受けているスペシャリストです。ぜひ気軽に相談してください。

早めに相談していただくことで、適切な時期に頭のゆがみの治療を始められたり、保護者の方の不安を軽くしたりできるメリットもあります。

大切なお子さんについて悩む気持ちはよくわかります。私たち医師と一緒に方法を考えていきましょう。

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