「ただのゆがみ」か「手術が必要な病気」か、頭のかたちに関する医師の判別正答率はわずか14.1%。慶應義塾大学医学部 形成外科学教室 坂本専任講師の研究が視診触診による頭の診断の限界を可視化
ー小児科医327名を対象とする研究成果が論文化。ヘルメット治療普及の陰で潜む「病気の見逃し」リスクが顕在化。「専門外来への直接受診」が赤ちゃんの未来を守る新基準にー
株式会社ジャパン・メディカル・カンパニー(東京都中央区、代表取締役CEO 大野秀晃、以下「当社」)は、慶應義塾大学医学部 形成外科学教室 坂本好昭専任講師との共同研究成果が『日本小児科学会雑誌』(第130巻 第4号)に掲載されたことをお知らせします。小児科医327名を対象とした大規模調査の結果、乳児の頭のゆがみが「手術が必要な病気(頭蓋縫合早期癒合症)」か「ヘルメット治療等の対象となる向き癖等によるゆがみ」かを視診・触診のみで正しく判別できた割合はわずか14.1%でした。本研究は、見た目だけの診断が横行する現行の診療体制に警鐘を鳴らし、画像診断が可能な専門医療機関への早期受診の重要性を提起しています。
│本発表の衝撃:86%が見逃される「診断の死角」
現在、開業医・かかりつけ医に普及しつつあるヘルメット治療領域において、乳児の頭のかたちについては「まず近隣の小児科で診てもらい、かかりつけ医が『病的変形の疑いがある』と判断した場合にヘルメット治療を行う、或いは、専門医療機関へ紹介する」という流れが一般的でした。しかし、本研究の結果は、乳幼児の頭蓋健診とヘルメット治療においては、この前提にある「一次医療機関におけるゲートキーパー機能」の限界を浮き彫りにしました。
- 「疑うこと」さえ困難な事実: 正答率14.1%という結果は、裏を返せば「医師が85.9%の確率で、手術が必要な病気を「ただのゆがみ」と誤認するリスクを示しています。ヘルメット治療で治療可能な病気であると誤診し、ヘルメット治療を適応するリスクも存在します。見た目と触った感触(視診・触診)だけでは、小児脳神経外科や小児形成外科医といった乳幼児の頭のかたちの専門医であっても正確な鑑別は極めて困難です。
- 専門医でも「画像なし」では確定不能: 本研究に参加した頭蓋縫合早期癒合症の手術経験を持つ小児脳神経外科・小児形成外科の専門家の正答率は49.0%。小児科医の正答率14.1%より高い結果となりましたが、全ての専門医は一様に、「確定診断にはレントゲンやCT検査が必要」と主張しています。
- 診療導線の再定義: 開業医・診療所の医師が「頭蓋縫合早期癒合症の疑いがあれば専門医療機関に紹介する」との流れでは、そもそも「疑い」を持たれずに手遅れになる可能性があります。頭のかたちに悩みについての悩みや、ヘルメット治療に関心がある場合は、「疑いの有無を判断する前に、最初から画像診断設備と専門医が揃った医療機関を受診する」ことが、赤ちゃんの健やかな発達を守るための新常識となる可能性を示唆しています。
│論文の要旨
赤ちゃんの頭のかたちの変化には、生活習慣等の影響で起こるものと、手術など専門的な治療が必要となる病気が原因となるものがあります。保護者にとっては見分けが難しい一方で、医療の現場でも「見た目や触った感触だけ」でその原因を判断する場面が少なくありません。
本研究では、頭のかたちの違いを再現した乳幼児の実物大の模型(11体)を作成し、学会会場で小児科医の先生方に「病的頭蓋変形の頭部模型」を視診触診していただく大規模な目隠し調査を実施しました。

(研究に使用した頭部模型の画像)
- 低い正答率の背景: 小児科医327名の正答率は14.1%。勤務年数や、ヘルメット治療の提供経験にかかわらず精度は一様に低く、経験則だけでは病気を見抜けないことが証明されました。
- 誤答の傾向: 特に「片側ラムダ縫合早期癒合症」などは外見が向き癖によるゆがみと酷似しており、誤答率は29.7%に達しました。これを見逃すと、発達・発育を阻害するリスクがあり、深刻な事態を招く恐れがあります。実際に諸外国では、頭のかたちに関する誤診で大規模な訴訟も発生しています。
- センター化の必要性: 診断と治療が専門施設に集約されている欧米に比べ、日本は一般開業医が初期診断を担うケースが多く、トレーニングと画像設備の不足が構造的な課題であると提言しています。
│研究の意義:鑑別の難しさを前提に、診療導線の設計が重要
本研究は、小児科医による視診・触診のみでの鑑別は十分とはいえず、頭蓋縫合早期癒合症が見逃される可能性が示唆されることを明らかにしました。論文では、確実な鑑別診断と適切な治療提供のため、専門医紹介や画像診断の活用を含めた診療体制の整備が求められると結論づけています。
乳児の頭のかたちは保護者の関心が高い一方、適正な鑑別と導線が整わなければ、必要な専門的治療へつながるタイミングに影響する可能性があります。本研究は、鑑別の現状を可視化することで、適正な頭蓋健診の提供体制を検討するうえでの基盤情報となることが期待されます。
慶應義塾大学医学部 坂本専任講師と当社では、今回の論文中に記載されている課題をベースとした第二弾の研究の実施を予定しています。
(以下、論文より本研究で明らかになった課題について一部引用)
しかしながら本邦ではセンター化されておらず、十分なトレーニングを受けているのかということも懸念される。そのため頭蓋縫合早期癒合症の治療に携わる医師での正答率は高いのか今後の検討課題と考える。また今回、正解は一症例と事前に知らせる形であったが、実臨床と同様に正解数を知らせずに調査を実施していた場合の正答率の検討も必要である。
│共同研究についてコメント

慶應義塾大学医学部 形成外科学教室 坂本 好昭 専任講師
【略歴】
2005年 慶應義塾大学医学部卒業
2007年 慶應義塾大学医学部 形成外科学教室入局
2008年 都立清瀬小児病院 小児外科 医員
2009年 慶應義塾大学病院 形成外科 後期臨床研修医
2010年 独立行政法人国立病院機構東京医療センター 形成外科 常勤医
2011年 慶應義塾大学医学部 形成外科学教室 助教
2016年 慶應義塾大学医学部 形成外科学教室 専任講師
【認定資格・所属学会】
日本形成外科学会専門医・指導医
日本頭蓋顎顔面外科学会専門医
日本皮膚腫瘍外科専門医
小児形成性外科分野指導医
日本美容外科学会(JSAPS)専門医
日本頭蓋顎顔面外科学会 代議員
クラニオシノストーシス研究会 世話人
International Society of Craniofacial Surgery, Active Member
Asian Pacific Craniofacial Association, Active Member
European Association for Plastic Surgeons, Corresponding Member
American Association of Plastic Surgeons, Active Member
特に懸念されるのは、本来手術が必要な頭蓋縫合早期癒合症が見逃される可能性です。
近年、ヘルメット治療が広く普及していますが、診断が不十分なまま治療が開始されると、適切な手術のタイミングを逃すリスクがあります。
今後は、視診・触診のみに依存するのではなく、専門医への紹介や画像診断を含めた診療体制の整備が不可欠と考えています。
│掲載論文情報
掲載誌:日本小児科学会雑誌
論文名:乳児の頭の形に対する診断の現状
掲載:第130巻 第4号(2026年)
DOI:10.82602/jpeds.25-0081
│掲載論文情報(英論文)
掲載誌:Journal of Craniofacial Surgery
論文名:Diagnostic Accuracy of Craniosynostosis in Japan: A Survey Using Three-Dimensional Physical Models
掲載:2026年(オンライン先行掲載/巻号未定)
DOI:10.1097/SCS.0000000000012724
│当社と慶應義塾大学の取り組み
当社と慶應義塾大学は、乳児頭蓋変形と医療模型開発という二つの領域において、継続的に連携を重ねてきました。頭蓋変形に関する複数テーマでの共同研究に加え、慶應義塾大学病院における「赤ちゃんの頭のかたち」セミナーの共催、経鼻内視鏡手術シミュレーションモデルの開発と手術技能習得効果の検証など、臨床・教育・研究の各側面で協働を積み重ねています。
こうした取り組みは、個別の研究成果や製品開発にとどまらず、医療現場で求められる新たな知見を可視化し、より良い診療や教育のあり方を形にしていくための基盤となっています。今回の共同研究も、その継続的な連携の延長線上に位置付けられるものであり、乳児の頭のかたちに関する基礎データ整備をさらに前進させるとともに、保護者への説明、経過観察、適切な受診導線のあり方にまでつながる新たな知見の創出が期待されます。
当社は、慶應義塾大学との協働を通じて、臨床現場で得られる課題意識を研究へ、研究で得られた知見を医療現場へと還元する循環を強めていきます。今後も、両者の連携から生まれる知見や成果を積み重ねることで、乳児頭蓋変形に関する診療・評価・情報提供の新たなスタンダードづくりに貢献してまいります。
(参考プレスリリース)