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一度の手術経験を、次の医師が学べる教材へ―九州大学とジャパン・メディカル・カンパニー「博多モデル」の研究成果が国際誌に掲載

2026.10.29
頭蓋底手術教育で培った知見を、患者個別モデルの開発・共同研究へ。九州大学 吉本幸司先生・空閑太亮先生が、全頭蓋3D模型を用いた実習評価と術野比較を報告

┃本リリースのポイント

  • 大野興業時代の頭蓋底手術教育から、九州大学・福岡大学との模型開発、九州大学との共同研究へ
  • 全頭蓋3D模型を8名の脳神経外科医が評価。患者ごとの腫瘍や周囲の神経・血管まで再現し、実際の手術で見える位置関係と比較することで、手術前にアプローチを検討する教材としての可能性を示した
  • 研究公募で支えた成果を国際誌で共有し、使い手の評価を次の模型改良と若手医師の教育機会へつなぐ
株式会社ジャパン・メディカル・カンパニー(東京都中央区、代表取締役 大野秀晃、以下当社)は、2025年度の医療模型共同研究公募で採択した、九州大学大学院医学研究院 脳神経外科の吉本幸司先生(教授)、空閑太亮先生(講師)との共同研究成果が、2026年9月2日、国際学術誌『Neurosurgery Practice』に掲載されたことをお知らせします。
研究に用いたのは、医療模型KEZLEX(ケズレックス)の技術で、頭蓋骨・脳・神経・血管などを一体に再現した全頭蓋3D模型、通称「博多モデル」です。今回は患者個別の病変も組み込み、脳神経外科医8名の実習評価と、患者1名の模型と実際の術野との比較を報告しました。大野興業時代からの手術教育と模型開発を、研究による評価と、次の教育へつなぐ成果です。
2026年、日本頭蓋底外科学会にて
2026年、日本頭蓋底外科学会にて。九州大学の空閑先生と当社開発担当の白川が、博多モデルの頭蓋骨部分と脳部分を手にする。研究者と製造側による協働の一場面。

┃掲載論文の概要

論文名:Educational Utility of a Full-Skull 3-Dimensional Model for Skull Base Surgery Training
著者:Daisuke Kuga, Koji Yoshimoto
掲載誌:Neurosurgery Practice(2026年)
論文の抄録・書誌情報(PubMed)
DOI:10.1227/neuprac.0000000000000283

※Neurosurgery Practiceは、Congress of Neurological Surgeons(CNS)の公式オープンアクセス誌です

┃頭蓋底手術を手で学ぶ。その積み重ねを、患者ごとの学びへ

模型開発の歩みは、当社の前身である大野興業時代にさかのぼります。2009年、九州大学脳神経外科の佐々木富男先生が主催する第21回日本頭蓋底外科学会総会に向け、神経や硬膜などを備えたKEZLEX頭蓋底モデルと、実際の手術器具を用いたドリリング実演の企画を発表しました。若手の先生方が、骨を削る感触と重要な構造の位置関係を確かめるための教材づくりです。
その後、九州大学・福岡大学・当社の三者による共同開発から、頭蓋全体と脳を組み合わせた博多モデルが生まれました。2024年には両大学の合同ハンズオンでもKEZLEXを使用。医師が手を動かして学ぶ場と、模型をつくる現場との接点を重ねてきました。
ここからこの取り組みは、解剖を再現することに加え、患者様ごとに異なる病変と、その周囲の神経・血管を教材に組み込む研究へ進みました。どこから病変に近づくか、限られた空間で器具をどう動かすか。同じ症例を前に、若手と指導医が手を動かしながら検討できる模型を目指しています。

2009年:大野興業が、頭蓋底モデルを使う手術教育の企画を発表。
2024年:九州大学・福岡大学合同ハンズオンで、模型を使った手技教育を実施。
2025年度:当社の医療模型研究公募で、空閑先生の研究課題を採択。
2026年:患者個別モデルの研究開始を公表し、実習評価と術野比較を国際誌で報告。

2009年の頭蓋底手術教育の企画
個別腫瘍を再現する博多モデルの共同研究開始(2026年2月2日公表)

この展開を研究として進めるため、当社は2025年度の医療模型共同研究公募で、空閑先生の「脳神経外科手技教育と術前計画支援を目的とした実臨床腫瘍モデルの開発と評価」を採択しました。2026年2月に共同研究の開始を公表し、今回、吉本先生・空閑先生が結果を論文として発信。当社は研究資金・模型の提供と、開発担当者白川によるモデル開発・患者個別腫瘍モデル製作の技術支援を担いました。

┃「どこにあるか」から、「どう近づき、どう動かすか」へ

頭蓋底は、脳を下から支える頭蓋骨の底の部分です。神経や血管が集まる深い場所へ到達するには、頭蓋骨内部の構造に加えて、器具を入れる角度や、操作できる空間を理解する必要があります。画像で知った解剖を、自らの手の動きへ結び付けることが、模型を使った学びの狙いです。
博多モデルは、前方・中央・後方にわたる頭蓋底の構造に、主要な動脈、脳神経、静脈洞、硬膜を組み込んでいます。柔軟な脳のパーツをそっと動かすことで、病変へ向かう経路や、器具を操作する空間がどう変化するかも確かめられます。
全頭蓋3Dモデル「博多モデル」
全頭蓋3Dモデル「博多モデル」。柔軟な脳のパーツを動かし、頭蓋底と脳の間の空間を確かめる様子(当社開発記録)。
一つの模型で複数の到達経路を試し、経路を変えると何が見え、どこに作業空間が生まれるのかを比較する。さらに患者ごとの病変を加えれば、腫瘍によって神経や血管の位置が変わった状態も検討できます。正常な解剖を学ぶ教材から、症例ごとの手術戦略を考える教材へ、使い方が広がります。
博多モデルの頭蓋内構造。神経・血管・硬膜などの位置関係を、頭蓋全体の中で確認できる(当社開発記録)。

┃模型をつくり、使い、確かめる。今回の論文が示したこと

  1. 手を動かす実習で、立体的な解剖と到達経路を評価
  2. 脳神経外科専攻医2名と専門医6名の脳神経外科医計8名が、模型を使った実習に参加しました。前方経錐体法、複合経錐体法、経顆法などの到達経路に加え、前頭側頭開頭後の前床突起削除を練習しました。
    実習後、骨の硬さ、模型のリアリティ、ドリリングの感覚、解剖学的正確性、安全性・扱いやすさ、全体的な満足度を5段階で評価し、自由記述も集めました。
    平均値は、模型のリアリティ4.25点、実習中の安全性・扱いやすさ4.25点、解剖学的正確性4.00点でした(5点満点、8名の実習後の評価)。
    先生方からは、重要な構造の位置関係や、到達経路を理解するために役立つとの評価が寄せられました。全頭蓋を一つの教材として扱う特長と、使い手の評価に基づいて改良する方向性が、論文として共有されました。
    同じ模型で複数の経路を確かめられることは、若手と指導医が手術への到達の仕方を話し合うための土台にもなります。模型を囲んで生まれる疑問や発見を、次の実習や開発へ返していきます。

  3. 患者個別の病変を再現し、実際の術野との対応を確認
  4. 鞍結節部髄膜腫という頭蓋底の腫瘍を有する患者1名のCT・MRIデータから、腫瘍の形や付着部位、周囲の視神経・血管のずれをモデル内に再現しました。眉毛付近から到達するアプローチで模擬的に腫瘍を摘出し、同じ症例の術中写真と比べています。
    腫瘍によって移動した視神経と、内頸動脈などの血管との位置関係が、実際の術野と良好に対応したと報告されました。症例ごとに異なる病変を、術者の説明や画像に加えて、手で触れて検討できる教材にする。その具体例が今回の研究で示されました。

    腫瘍付き全頭蓋モデルの開発参考例(2025年3月、当社記録)。病変と周囲の神経・血管を組み合わせ、手術経路を検討するための模型開発を進めてきた。
    評価の対象と、次の検証

    本研究は、脳神経外科医8名の実習後の評価と1症例の術野比較を通じて、教材としての特長を検討したものです。技能の向上や患者の治療成績への効果は、今後の検証課題です。
    今回の評価を基に、使用する先生方の習熟度や目的に合う模型と実習を組み合わせ、教育プログラムとして検証を重ねることを目指します。

    ┃ 論文を、次の模型と次の教育機会へ

    長く続けてきた教育とものづくりに、研究による評価と公表が加わりました。先生方の経験からつくられた模型を、ほかの医療者も検討できる知見として共有し、その評価を改良へ戻す。今回の論文化によって、臨床・研究・開発・教育を行き来する歩みを、さらに進めていきます。

    医療模型の共同研究公募を通じた研究支援

    実習で挙がった骨の硬さ、ドリリングの感覚、硬膜を切開する手応えの改善点は、次の材料選びや製作方法を考える具体的な課題です。全頭蓋の位置関係を理解しやすい構造を生かしながら、教育の目的に応じてどの感触や動きを再現するかを、臨床と製造の双方から詰めていきます。
    2024年4月27日、九州大学・福岡大学合同ハンズオンセミナー
    2024年4月27日、九州大学・福岡大学合同ハンズオンセミナー。医療模型を用いて手技を学ぶ、継続的な教育連携の一場面。

    九州大学・福岡大学合同ハンズオンの開催報告(2024年)

    さらに、患者個別モデルを充実させることで、一人の患者様から学ぶ経験を、複数の医師が共有し、繰り返し検討できる教材へ発展させることを目指します。教える先生の手技を見て、同じ模型で自ら試し、違いを議論する。症例を通じた学びを、次の世代へつなげていく構想です。
    吉本先生が展望する患者個別モデルや関連診療科との合同教育、空閑先生が目指す世界の若手脳神経外科医の教育機会の拡大へ。当社は、医療現場から生まれた問いを研究公募で支え、先生方の評価を設計・材料・製造へ戻し、次の実習と研究へつなぎます。今回の論文を、次の模型と次の学びをつくるための足場にしていきます。

    ┃研究者よりコメント

    吉本幸司先生
    九州大学大学院医学研究院 脳神経外科 教授

    頭蓋底手術の安全性を高めるためには、解剖学的知識を実際の手技へ結び付ける体系的な教育が不可欠です。今回開発した全頭蓋3Dモデルは、教科書や画像だけでは理解しにくい深部構造を立体的に把握し、複数の手術アプローチを同じ条件で反復・比較できる点に大きな意義があります。カダバーを用いた実習は今後も重要ですが、実施できる機会や場所には限りがあります。本モデルはそれを置き換えるものではなく、日常的な反復訓練とカダバー実習をつなぐ実践的な教育基盤になり得ます。今後、触感の再現性を高め、患者個別モデルや関連診療科との合同教育にも展開することで、若手医師の育成と手術の安全性向上に広く貢献することを期待しています。

    空閑太亮先生
    九州大学大学院医学研究院 脳神経外科 講師

    頭蓋底手術では、複雑な三次元解剖の理解と高度な骨削除技術が求められますが、若手医師が十分な訓練を行える機会は限られています。カダバー実習は極めて重要である一方、倫理・法制度、文化的背景などから、実施が難しい国や施設もあります。本研究では、全頭蓋3Dモデルを用いてハンズオンコースを行い、参加者からも解剖学的正確性、操作性などについて高い評価が得られました。また、患者様の画像データから病変を再現する患者個別モデルは、症例ごとの手術戦略を事前に検討する手段として期待できます。今後は、本モデルに改良を加え、習熟度や目的に応じたモデルへ発展させることで、世界の若手脳神経外科医の教育機会を広げたいと考えています。

    医療模型KEZLEXについて

    KEZLEXは、当社が開発・製造する医療用精密立体模型です。1999年以来の医療模型開発の蓄積と、脳神経外科・耳鼻咽喉科などの先生方の知見を組み合わせ、手術前シミュレーションや手術トレーニングを支援しています。博多モデルは、その技術を用いた全頭蓋3Dモデルです。
    KEZLEXの製品・手術トレーニング用模型